令和3年度 ユネスコスクールフォーラム

1.はじめに 東三河ESDユネスコスクールフォーラムについて

豊橋ユネスコ協会 会長 渡邉正

 豊橋ユネスコ協会は、来年15周年を迎えます。豊橋ユネスコ協会を設置して間もなく、「豊橋らしいユネスコ活動」を会員で手探りしているとき、2010年の秋に中部西ブロックのユネスコ活動研究会を豊橋で開催することになり、そこで各地の先進的なユネスコ活動の経験を学びました。

 ちょうどその頃、日本がユネスコに提案して国際的な事業として動きはじめていたESD、持続可能な発展のための次世代の担い手育成について、それぞれの地域ユネスコ活動のなかで取り組みが行われていることを知りました。また各地のユネスコスクールがこのESDの取り組みの拠点として位置づけられ、出前授業など多様な支援、協力が行われていることを学び、これを豊橋ユネスコ協会の活動の中に取り入れていくために、ESDやユネスコスクールについて学習するとともに、具体的な活動の方法を模索しました。

 2014年に愛知県名古屋市でESDの国際総括会議が開催されることになり、これを契機に少数だった県内のユネスコスクールの登録が百数十校まで増加しました。とくに豊橋市では、それまで教育委員会を中心に進められていた「特色ある学校づくり」の取り組みがESDの指針と共通するということで、市内の小、中学校の全校がユネスコスクールの登録を推進されました。

 ESDの取り組みは学校だけではなく、地域と連携、協力して計画的、組織的に進めることが基本であるということから、私たち地域ユネスコ活動でできることは何かを具体的に検討し始めました。そこで、まず各学校の「特色ある学校づくり」がどのように行われているのか、またそれを踏まえてどのような内容でユネスコスクールに登録されようとしているのか、さらにESDの具体的な取り組み方針や実践などについて知ること、地域で共有を図ることが必要であり、大事なことだと考えました。

 そのために、豊橋市教育委員会の理解と協力により、2014年に第1回のユネスコスクールフォーラムを試験的に開催しました。このフォーラムで児童、生徒による素晴らしい報告が行われたことに勇気づけられて、その後も継続的な開催をめざすことになりました。

 2015年の3月には豊橋市内の小学校52校、中学校22校の全校がユネスコスクールに登録され、さらに豊橋中央高校や新城市作手小、中学校、聾学校などが登録され、東三河地域にも広く呼びかけるフォーラムを2019年までに5回開催しました。

 開催に当たっては、ESD、ユネスコスクールの趣旨にもとづいて、できるだけ児童、生徒が主体となって報告、参加、交流ができるように内容や方法の改善、充実を図るよう工夫をしてきました。

 しかし、昨年2020年は新型コロナ感染禍による活動制限で中止せざるを得ず、また今年度もフォーラムの開催を取りやめることになり、その替わりに各学校の活動内容を本協会のホームページに公開し、共有、交流を図ることになりました。困難な状況の中でいろいろご協力いただいた皆さんに感謝申し上げます。

 「継続は力なり」といいます。いま2030年を目標にしてSDGsの取り組みが多方面で進められています。私たちもESDの活動を通してSDGsの達成に向けた取り組みとしてこのフォーラムを継続的に開催し、学校や教育委員会、地域の諸団体、市民の皆さんと協力、連携して次世代の担い手、主体の育成をめざしていきたいと思います。

2.SDGs達成に向けて ~市内小中学校の実践~

南稜中学校

地域貢献ボランティア

 2018年度より地域連携・地域協働活動として、「中学生地域貢献ボランティア」を展開している。地域から受けた依頼を「生徒会ボランティアセンター」を通して全校生徒に募集し、校区の祭り等の運営補助や吹奏楽部の出前演奏、ミナクルでの学習会などを行っている。また校内の草取りや清掃活動など、中学生発案のボランティア活動にも積極的に取り組み始めている。この活動は、校区からの期待も大きく、地域の活性化と地域を担う意識の向上にもつながっている。

環境に関する学習

 1年生は「梅田川にふれる-故郷の自然を再発見-」とし、豊かな生態系に気づくととともに、水質汚染・海洋ゴミ問題について考える。2年生は、「梅田川とともに生きる-わたしたちにできること-」とし、梅田川の河川氾濫とそれに伴う避難所運営などの防災学習と梅田川の上流・下流の違いについて考える。3年生は「梅田川を未来へつなぐ-持続可能な社会の実現にむけて-」とし、これまでの学びをもとに視野を世界へと広げ、SDGs達成に向け、できることを考え、動き出す。子どもたちは、主体的に学び、持続可能な社会の実現に向けて着実に歩み始めている。

下地小学校

環境に関する学習

 昨年度は、豊川の水質検査をきっかけにして、豊川の清流のシンボル絶滅危惧種「ネコギギ」の繁殖を願い、学校内外へ水質向上のキャンペーンを展開した。本年度は、10月に4年生が豊川の水質調査を行った。地域を流れる豊川に親しみ、豊川に関する学習に取り組むことは、子どもたちの自然環境への関心を高めるとともに、環境保全のためにできることを考え、行動しようとする姿につながっている。

地域に関わる学習

 11月、2年生は町探検で校外学習に出かけた。校区で働いている人の思い、校区の様子などに目を向けることで、町の魅力を再発見し、「まち」や「人」への関心が高まっていく。子どもたちは校区のお店を訪問し、下地には、すてきな場所・すてきな店・すてきな人がいっぱいいることに気づいた。また、店と教室を結んでオンライン交流も行うなど、学びの方法も広がっている。

 町探検は、校区のことを知り、見つめる第一歩であり、SDGs「11 住み続けられるまちづくりを」「8 働きがいも経済成長も」の達成につながる学びでもある。

前芝小学校

環境に関する学習

 みなと塾(校区の方が主催)の方々の協力のもと、3・4年生が干潟学習として、六条潟の生き物調査を行った。3年生は、干潟の生き物調べを行った。4年生は、30㎝平方の木枠内の砂を掘り起こし、その中にいるアサリの個数と重さを調べ、グループごとワークシートに結果をまとめ、全体の集計を出した。

 身近な場所に生息する生き物について調査したことで、生物や自然環境への関心が高まった。

平和の学習

 校区と戦争との関わりについて調べ、わかったことや考えたことを個々にまとめた。戦争当時の様子を詳しく知るために、写真資料や映像資料を見て、社会のようすや人々の暮らしについて、知ることができた。子どもたちは、自分たちの住む地域や国だけでなく、世界にも目を向けることができ、平和について改めて考える機会となった。

大村小学校

SDGsを意識した学習

 「未来の天気予報」という動画を見て、地球温暖化がこのまま進むと、未来の日本が災害や食料不足で大変なことになることを知った子どもたち。何とかしなくてはいけないという思いのもと、地球温暖化について、本やインターネットで調べ学習をすすめ、チームごとにポスターにまとめ、発表した。

 2学期には、環境問題について未来への思いを絵にし、エコメッセージ絵画コンクールに応募した。作品がポストカードとして戻ってきたら、自分たちの思いを伝えるために活用する予定である。

 また、出前授業でSDGsについて学んだことをきっかけに、興味をもった目標について調べ、タブレットを使ってプレゼンテーションをした。

 友達の発表を聞いて、世界にはさまざまな問題があること知り、問題解決のために自分たちにできることをしていこうという意欲が高まった。

 ESDの実践を通して、夏場のエアコンの設定温度を28度にしたり給食の残食を減らそうと声をかけたりするなど、SDGsを意識した行動をとる姿が見られるようになった。また、SDGsについてもっと多くの人に知ってもらいたいという思いをもち、他学年や保護者に広げていくことができた。

3.ボランティア活動報告

① 豊橋市立松山小学校

(1)すてきな花だんにしよう

 5年生のボランティアは、夏休みの間に雑草で覆いつくされてしまった学年花だんの草取りをし、花の苗を植えました。9月の下旬、残暑の中、昼の休み時間を使って花だんの整備をしました。花を植えてからも、水やりや除草などの世話も継続して行っています。

(2)ペットボトルキャップ回収

 全校で回収されたキャップは、リサイクルされ、キロ数に応じてJCV(世界の子どもにワクチンを日本委員会)に寄付されます。キャップ860個でポリオワクチン1人分が購入できるそうです。本校では、ペットボトルキャップ100個集めると1ボランになります。親戚や、近所の方に協力してもらいキャップを集める子もいます。

3.白山比咩神社(しらやまひめじんじゃ)吉田天満宮(よしだてんまんぐう)
祭礼の巫女舞

 校区にある白山比咩神社(しらやまひめじんじゃ)・吉田天満宮(よしだてんまんぐう)の祭礼が2月と5月に行われます。その祭礼の中で巫女舞が奉納されます。巫女舞は、氏子町内に住む希望する女子児童が舞うことができます。祭礼の1か月前ぐらいから踊りの先生から教わり、当日、境内で舞を奉納します。

② 豊橋中央高等学校

3年間で30ボラン3回達成 粂晴斗

 私は豊橋中央高等学校のユネスコ委員会の活動の一環として多種多様なボランティアに参加してきました。その中でも最も強く印象に残る活動が「“届けよう、服のチカラ”プロジェクト」です。

 この活動は、ユニクロやGUを展開している、(株)ファーストリテイリングとの協力でおこなわれており、紛争や内戦などによって、国内から逃げることを余儀なくされ、衣食住の生活基盤を失った難民の子どもたちに子ども服を贈る活動をしています。ユネスコ委員会の取り組みとしては、難民の子どもたちに服を贈るために、「私たちが着ることができなくなった子ども服」を回収します。

 しかし、高校生が着ることができなくなった子ども服(160cmまで)をもっていることは稀です。”家族のなかに年の離れた弟や妹がいる”などのケースに限定されてしまいます。そこで、より多くの子ども服を贈るためにはどうしたらいいかと考え、「豊橋市内の幼稚園にもご協力いただき、子ども服を集めよう」という発想に至りました。以来5年間、豊橋市内の幼稚園・こども園との協力でこの活動を行っています。

 活動を行っていく中で、この活動を継続することが困難に思われた時期がありました。新型コロナウイルスの世界的な流行です。高校での行事が中止や延期になり、修学旅行も行くことはかないませんでした。ボランティアも例外ではなく、特に校外でのボランティア活動は、中止や自粛になることが度々ありました。「“届けよう服のチカラ”プロジェクト」を幼稚園・こども園と一緒に活動することも困難になると思われました。しかし、幼稚園・こども園の児童の保護者の皆さんから「“届けよう服のチカラ”プロジェクト」に対する意欲的な問い合わせを多く頂きました。「これまで積み重ねてきたつながり」を強く実感した瞬間であり、コロナ禍ではありますが、感染拡大防止策に十分配慮しながら活動を行うことができました。

 また、新型コロナウイルスは日本だけではなく、世界的に流行しています。「ワクチン格差」という言葉があるように、貧富の差がより明瞭になったのでは、と感じています。服には体温調整や衛生面からも“命を守るチカラ”を持っています。そのこともあり、より“服を贈る”ことの意義を強く感じ、贈る服の一着一着に、より多くの思いを込めて活動に携わることができました。令和3年度に回収した服は約1,500kg、15,000着相当になりました。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)を通じて、難民の子どもたちのために贈りました。

 新型コロナウイルスの影響は経済面や日常生活の規制、学校生活の変化等、数えきれないほどの被害が世界中を襲ったのは明らかです。しかし、私は新型コロナウイルスを経てこれまでのボランティア活動に新たな意義ややりがいを見つけることができたと感じました。私は高校生活3年間で90を超えるボランを獲得しました。このことは私一人で達成することは難しく、ご協力いただいた、幼稚園・こども園とその園児、保護者の皆様、活動に協力・応援してくれた学校や先生、一緒に活動をしてきたユネスコ委員会の仲間には、とても感謝しています。ボランティア活動を通して感じた感謝を胸に、これからも「世界のために何ができるか」考え、行動していきたいです。ありがとうございました。

4.おわりに 第6回東三河ESDユネスコスクールフォーラムの経過と発表内容に対する所感

 昨年度フォーラムは、6月時点で開催の可否を決定しましたので、すべてを中止しました。本年度につきましては、9月時点で決定しましたので、実践報告校のテーマが決まっていたことやデザインコンテストの募集が始まっていたこともあり、ホームページ上で可能な限り発表する形とさせていただきました。

 ESD実践報告の発表校予定校およびそのテーマは、次のとおりでした。

  1. 豊橋市立下地小学校 「ネコギギ誘致大作戦」

  2. 豊橋市立前芝小学校 「前芝の魅力を伝えます」

  3. 豊橋市立大村小学校 「地球を守るために わたしたちができること」

  4. 豊橋市立南稜中学校 「梅田川を未来につなぐ ~持続可能な社会の実現に向けて~」

 下地小学校は、校内のビオトープの水質検査をきっかけとして、地域を流れる豊川および豊川の上流・下流へと学習を進め、その中で希少生物「ネコギギ」の保護活動につなげていっています。学習に広がりが見られ、子供の成長の姿が目に浮かぶようです。

 前芝小学校は、保育園・小学校・中学校が隣接している特性を生かし、地域と一体となった学習がなされています。校区に六条干潟を有し、そこに生息する生き物を調査することによって環境問題に関心を深める様子が窺えます。平和学習では、豊橋ユネスコ協会もお手伝いさせていただいています。

 大村小学校は、授業で視聴した動画から「地球温暖化」に興味をもち、世界で直面する問題まで目を向けています。改善するためにエアコンの温度設定を下げたり、給食の残食を減らすなど自分たちのできることから実践しています。さらに、エコメッセージを発信しようという積極的な姿勢が素晴らしいです。

 南稜中学校のレポートからは、小中連携を含め地域とのつながりを大切にし、地域活動に積極的に関わっている様子が窺えます。総合的な学習で地域を流れる「梅田川」をテーマとし、1年生から段階的に学習を広げています。3年生では、真正面からSDGsに取り組み、世界に貢献できるような大人になろうという気概が感じられます。

 今回は、松山小学校と豊橋中央高等学校の児童生徒さんにボランティア体験をレポートしていただきました。松山小学校では、代表児童3名がそれぞれ「校内での美化活動」「ペットボトル回収活動」「地域の祭りへの参加」事例を挙げてくれました。積極的にボランティア活動に参加する児童が多く、毎年、数名が豊橋ユネスコ協会の認定証・奨励賞の対象となっています。豊橋中央高等学校は、ユネスコ委員会の一員として「届けよう、“服のチカラ”プロジェクト」の活動例を紹介してくれました。自分たちで考え、幼稚園・こども園と連携するという具体的な活動に結びつけています。コロナ禍であっても保護者からの積極的な申し出が得られるほど活動が根付いている様子が窺え、素晴らしい実践であると思います。また、豊橋中央高等学校では、愛知環境賞の中日新聞社賞を受賞したリヤカーボランティアを継続的に実施し、校内はもとより市内の中学生の活動にも影響を与えています。毎年、日本ユネスコ協会の認定証を受賞する生徒が複数出ています。

 2021年6月1日現在、市内23校、7,000名に近い児童生徒が「SDGsボランティア育成事業」に参加しています。豊橋ユネスコ協会では、独自に奨励賞や認定証を出すことによってボランティア活動の普及に努め、持続可能な社会づくりの担い手となる児童生徒の育成に寄与したいと考えています。今回の体験レポートが他の多くの皆さんの参考となれば嬉しく思います。

 前回まで行ってきた「ESDメッセージコンテスト」に替え、今回は「SDGs『2030年の豊橋』デザインコンテスト」を実施しました。メッセージコンテストに比べハードルが高く、応募の少ないことを心配しましたが、積極的に取り組んでくれた学校や一人で2作品応募してくれた子もあり、88点の作品が集まりました。優秀作品20点についてホームページに掲載してありますので、ぜひご覧ください。

 作品内容としては、豊橋市のSDGs未来都市計画において「水と緑の地域づくり」がテーマになっていることから、全体として「環境」をテーマにした作品が多く見られました。中には「共生社会の実現」や「教育の保障」をテーマに取り上げた作品も散見され、広くSDGsの目標が捉えられていることを嬉しく思いました。豊橋ユネスコ協会としては、このコンテストをきっかけに、今後より広く、多くの皆さんがSDGsに関心をもち、より良い社会の実現に寄与してくれることを願っています。

令和3年12月13日 豊橋ユネスコ協会理事 柴田哲郎